鈴姫
虫の鳴き声がどこからか聞こえてくる。
池で魚が跳ねて月をぼかした。その水紋が消えたころ、ためらいがちに紅玉が口を開いた。
「憂焔様が、……鏡の手にかかったとお聞きしました。」
「聞いたんだね」
「それでは……、まさか、本当に……?」
顔色を悪くする紅玉に、宝焔は本当だと頷いた。
「兄上も、嫁いでくるはずだった鈴の姫も殺されたらしい。皆殺しだったそうだよ」
「そんな」
口元を両手で覆い、涙ぐむ紅玉の肩を抱いた。
「悲しい?」
紅玉はこくこくと頷き、その瞳から涙をこぼした。
紅玉の涙を指で拭いながら、宝焔は寂しげに口角をあげた。
「僕には悲しむ資格なんてないんだ」
宝焔が言った言葉を、紅玉はどう理解したらいいのかわからなくて首を傾げた。
宝焔は笑って手を振った。
「いいんだ。君はどうかそのままでいてくれ」
紅玉の髪を慈しむように撫でて、そのまま彼女の腰に腕をまわし、部屋へ戻ろうと促した。
紅玉は素直にそれに従い、池に背を向けた。
彼らの背後で、池は変わらず月を映している。
また、一匹の魚が宙に跳ね、それきり姿を現すことはなかった。