鈴姫
「……ハルは、あれから出てきてくれませんね」
沈黙に耐え切れず、香蘭が口を開くと、秋蛍は横眼でちらりと香蘭を見てからまた視線を正面に戻した。
「ああ。いつでもヒトガタでいられるわけではない。条件が揃ったときでないとヒトガタにはなれないんだ」
「条件があるのですか」
「まずは陽が出ていること。そして晴れていることだ」
「……、要するに、太陽がでていないと駄目なのですね?」
「そういうこと」
秋蛍はそのまま目を閉じ、背中を壁に預けた。
香蘭は窓の外を見上げた。
今はすでに夜も更けていて、太陽はどこにも見当たらない代わりに、月が雲に隠れながらも輝いているのが見えた。
「いつ、攻めてくるのでしょうね」
香蘭はぽそりと呟き、秋蛍はゆっくり目を開けた。
「その、香と……、鈴は」
「つくづくかわいそうな奴だなお前は。敵国の食客になって苦しんでいるかと思えば今度は便利な道具として閉じ込められたり狙われたりするのだからな」