鈴姫
急に秋蛍に手首を掴まれ、香蘭は驚きに目を見開いた。
秋蛍は怒っているというわけでも、機嫌が悪いというというわけでもなく、ただ真剣な表情で香蘭にその瞳を向けていた。
「なぜ国に帰らない。自分が国を統一する力があるのなら、母国を勝たせることはできるのに。どうしてここに留まっていられる?」
彼の黄緑色の瞳は本当に不思議そうで、香蘭は答えなくてはならない気持ちになった。
「私は、気づいたのです。いくらあの国に大切な人がいようと、終わらせなくてはならないことに」
「……」
「この三国はいつまで争い続けなければならないのでしょう。本当の平穏はいつ訪れるのでしょう。私たちは共に生きてはいけないのですか」
「きれいごとだ、お前の言っていることは」
香蘭の問いに秋蛍は顔をしかめて、手首を掴む手に力をいれた。
「今なら逃がしてやれる。お前を……」
「えっ……?」