鈴姫
秋蛍ははっとしたようにして香蘭の手を離した。
「何でもない。俺は寝る」
そのままごろんと横になってしまった秋蛍に、香蘭はぱちぱちと目を瞬かせた。
鏡のほうからくすくすとハルの笑い声が聞こえたような気がした。
咄嗟に鏡のほうに顔を向けたが、ハルはそこにはいなかった。
空耳だろうかと首をかしげながら香蘭が鏡を見ていると、鏡の後ろにある窓の向こうで、影が動いた。
香蘭がはっとしたと同時に、硝子が割れた。
素早く秋蛍に腕を引かれ、香蘭は床に伏した。
その衝撃で髪につけている珀伶の鈴がちりんと鳴った。
「お前はここにいろ」
壁に刺さった矢をちらりと見た秋蛍は焦った様子もなく、落ち着いた声で香蘭にそう指示して、割れた窓から外に走っていった。
香蘭は秋蛍が出て行ってしまって心細くなりながらも、彼が割れた硝子を利用して結界を張ってくれていることに気付いた。
少し安堵して、壁に刺さった矢に近づいた。
深々と突き刺さった矢は、香蘭を狙って放たれたものだろうか。
香蘭は息を飲んで、恐る恐る手を伸ばすと、矢を引き抜いた。
鏃が月明かりに煌めく。
それに刻まれた紋章は-―――
鈴国のものだった。