鈴姫


「何だそれは」


いつの間にか秋蛍が眉をきつく寄せて背後に立っていた。


香蘭は何も言わず、秋蛍に矢を差し出した。


秋蛍はそれを受け取って無言で眺めたあと、何かを探すように部屋を見回し、床から小さなものを拾いあげたように見えた。


それから決して優しいとは言えない動作で香蘭の腕を引っ張って、廊下に出た。


すぐに華京が二人のところへ駆けてきて、秋蛍に詰め寄った。


「何だ今の音は。何かあったのか!」


秋蛍は矢を差し出し、華京はそれを受け取ると顔色を変えた。


「これは……」


「何が目的かはよくわかりませんが、気配からしても敵は一人のようです。矢を放ってすぐに逃げたようで、捕えることができませんでした。申し訳ありません」


頭を下げる秋蛍に、華京はそんなことは構わないと首を振った。


「これがどういうつもりなのかわからないことは悔しいが。香蘭……、お前は、これを見たのか?」


秋蛍の後ろにいた香蘭は、言葉もなく頷いた。


「そうか」


華京は額に手を当て、片手で矢を二つに折った。


「だが、気にするのではない。これはお前を狙って放たれたものとは限らない。威嚇として放ったものが、たまたまお前の部屋だったというだけだろう」


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