鈴姫
「そうでしょうか」
華京の言葉に、秋蛍が反論した。
華京が余計なことをいうなという顔をするのも構わず、秋蛍は続けた。
「鈴の部屋はこの宮の中でも奥まった場所に位置します。見張りも多い。わざわざそんなところに忍び入って、ただの威嚇の為だけの矢を放つでしょうか」
「どういう意味だ」
「敵は知っているんですよ、巫女の存在を」
華京が二つにへし折って捨てた矢を拾い上げた。
「これはただの威嚇ではなく、確認だったのでしょう。あの部屋にいるという娘が巫女であるかどうか」
「なるほど、我々がどういう動きをするかで見極めようとしているのだな。今は下手に動かないほうがいいか」
ふむ、と華京が口元に指を当てると、秋蛍は首を振った。
「いえ。敵は確信したようです。巫女がいると」
「なぜわかる」
華京の不服そうな声に、秋蛍は懐から何かを取り出した。
香蘭は、それを見てはっとした。
秋蛍が先ほど拾っていたのはこれだったのだと知って、血の気が引いた。
「鈴が落ちていました。俺が鏡の流れを感じるように、鈴の流れを感じとることのできる者が鈴国にもいるのでしょう。鈴が巫女に反応したはずです」
秋蛍の手のひらの上で金色に煌めく小さな鈴を見て、華京は顔をしかめた。
彼女は珍しく口を閉ざし、どうすべきか考えこんでいるようだった。