シャワーと月明かりの中で

「繭ちゃん、ごめん、石鹸~」

彼に頼まれ、私が棚から石鹸を手にしたその時。

「キャッ」

雷の激しい音と共に、家中の電気が切れた。

私は目を凝らしながら、シャワーの音を頼りにゆっくりと歩きだす。

「お義兄さん?大丈夫ですか?石鹸持って…」


お風呂場の戸に手をかけたとほぼ同時だった。

突然腕が中から伸びてきて、私を中に引き込んだ。

淡い暗闇の中で、気付くと壁に押し当てられている私。

そして、静かに降ってくる冷たいシャワーが、私と彼の身体をつたった。

「ホント繭ちゃん可愛い。アイツが羨ましいよ」

耳元に囁かれたその声に、ビクンと身体が反応する。

明るい普段の彼の声とは違って、どこか切なく落ち着いた声色に、
不思議と冷たい筈の身体から熱を感じる。


首筋に伝わる甘い感触に、私は思わず石鹸を落とした。



[完]


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