花恋-はなこい-
ひっそりと静まりかえった

空き教室へと入る。


杏奈がそっと後ろ手に

ドアを閉めると、

真由の両肩をそっと押して

圭輔の前へと立たせた。


真由はゆっくりと

圭輔と視線を合わせる。


その表情は硬く、

真由との間に見えない壁が

あるように感じる。


空き教室に漂う

湿った空気のせいもあり、

真由の心身は震え上がっていた。


「ほら、真由。

 香坂君に訊きたいこと、

 あるんだよね?」


杏奈が後ろから優しく声を掛ける。


真由はこくりと頷くと、

小さくひとつ息を吐いてから言った。


「あのね、けいくん。

 なんで今日は

 いつもの場所にこなかったの、かな?

 ギリギリまで、私待ってたんだよ」


震える真由の声に、

表情ひとつ変えないまま

圭輔が口を開く。





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