花恋-はなこい-
きっと昨夜は

ずっと泣いていたんだろう。


腫れぼったい目をした杏奈が

力なく微笑んでいた。


「杏奈、大丈夫?

 今日の卒業式、出れそう?」


真由がもう一度

杏奈へと近付き、

そっと声を掛ける。


真由の問いに杏奈は

こくんと小さく頷いた。


「ん、大丈夫。

 だって、聡史の晴れ舞台だもん。

 答辞だって読むことになってるし。

 しっかりと見届けなきゃ……」


その言葉とは裏腹に、

語尾が震えていた。


真由はそっと

杏奈の肩に手を置く。


「卒業はおめでたいことだって

 分かってるんだけど、

 やっぱり杏奈は

 先輩とはなれたくないんだよね」


真由の言葉に杏奈は

少し間を置いてから頷いた。






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