花恋-はなこい-
「私がちゃんと笑顔で

 送り出さなきゃ

 いけないんだけど……。

 やっぱり、聡史と

 別々になるのは辛いよ」


杏奈の目から涙が溢れ出る。


真由は杏奈にかける言葉が

見つからなかった。


付き合い始めてから

一緒の学校が当たり前だった

杏奈と聡史。


学年がたった一つだけ

違うせいで、

2人にとっての当たり前が

簡単に崩れてしまうのだ。


同い年である真由と圭輔には

杏奈の悲しみが想像できない。


だから余計に掛けられる

適当な言葉が浮かんでこない。


真由はただただ

杏奈の肩を優しく撫でること

しかできないでいた。


しばしの沈黙。


周りの話し声が

いつも以上に響いて聞こえる。


「……私、ちゃんと

 聡史の姿、見届ける。

 高校生姿の聡史を

 この目に焼きつける。

 あんまり会えなくなっちゃうけど、

 これで終わりになるワケじゃ

 ないもんね」


そう言う杏奈の視線は

しっかり前を見つめ始めていた。





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