ダイダロスの翼
哀れな住民の暮らす町。

そこを取り囲むように、延々とフェンスが続いていく。


銃の密輸準備を済ませたレイノルドは、アタッシュケースを片手にフェンス近辺で待機していた。


見上げれば、監視カメラが律儀に町をにらんでいる。

レイノルドが壊したカメラは、すでに新品と交換されたらしい。


「……すぐに、助けてやるから」


思わずつぶやいたレイノルドの肩に、肉付きのいい手が置かれる。

振り返ると、トールがゆっくりと首を横へふった。


「トール、なぜ住民を町から連れ出さない。

俺ならヘリを使って住民を脱出させることも、研究所を襲撃することもできるのに」


拳をにぎりしめてそう訴えるレイノルド。

彼が電脳化を決意したのは、弱い者を助ける力を得るためだった。


そのためには何を犠牲にしても構わない、そう思っていたし、今もそれは変わらない。


だが、トールはさとすように告げるだけだった。


「だめだ、レイノルド。

自由は、住民が自らの手でつかまなくてはならない。

……お前は確かに有能だが、今はこらえろ」


レイノルドはトールをにらみつける。



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