お兄ちゃんって呼ばれたくない。
2.小さな生き物
いきなり、「今日からお兄ちゃんだ」といわれた僕は嬉しさとかそんな感情は湧いてこず、その小さな生き物に
ただただ戸惑ったことを覚えている。
両親はその子に、“みゆ”と名付けた。
みゆは両親によく可愛がられた。
いや、
実際には生まれたての赤子に両親が手を焼いていただけなのだが、一切構ってもらえなかった僕から見れば、妹が可愛がられているように見えるには十分すぎる光景だった。
けれど、その光景もつかの間、
両親は妹がハイハイできるくらいに成長すると、僕と妹二人を取り残して仕事に出かけてしまうようになった。
「みゆ…」
下っ足らずな声で妹を呼ぶと、みゆは玩具をいじっていた手をとめて、僕の方に一生懸命のハイハイで歩み寄る。
その小さな手をきゅ、と握ると思いのほか強い力で握り返されて、驚いたのを覚えている。
その日から、ただひたすら両親の帰りを待つときの、
あの虚しさと孤独感をみゆがいくらか埋めてくれた。
いつしかみゆは、僕にとってかけがえのない大切な存在になっていた。
両親よりも、
・・・誰よりも。