お兄ちゃんって呼ばれたくない。
3. 十年後
10年が経った。
僕は中学3年生、みゆは小学校4年生になっていた。
親は相変わらずで、帰りが遅い。
それでもみゆは「寂しい」とは言わない。
がちゃ、
「ただいま」
「おかえり」
ドアを開けると、小学校から一足先に帰って来ていたみゆが笑顔で出迎える。
そこでふと思い出したように、
「何で鍵しめてないの」
みゆを叱りつけた。
10才の少女が家に一人は危ないので、うちに帰ったらかぎを閉めるように言いつけていたのに。
「あー…わすれてた」
そういってわるびれる様子も無く妹は舌をだした。
「次からは気をつけろよ。」
「わかってる。それよりもお腹減ったよお兄ちゃん」
「はいはい、今作るから。今日はシチューだよ」
「ぅわーい!みゆ、お兄ちゃんのシチュー好き!」
満面の笑顔に、思わず僕も顔がほころぶ。
「じゃあジャガイモの皮むき、手伝ってくれる?」
「うん!任せて」
洗面所からキッチンへと踏み台を持って来たみゆはシンクの上で皮むき器を危なっかしいてつきで扱う。
「気をつけろよ」
「わかってる!」
なんとなしに妹の作業をみつめる。
「できた!」
一つ目のジャガイモの皮を剥き終えて、僕に満足げに差し出した。
「ん。はいつぎ」
皮の剥き終わったジャガイモを受け取って、包丁で刻みながら、次のジャガイモも剥くように促した。
するとみゆはせっせと再び作業を開始した。
僕ら2人のこの空間は、とても暖かかった。
父と母なんて、いない方がよかった。