意地悪LOVER
あれから数十分後。
俺は雨の降り続ける中、少しだけボーっとして、宿舎に帰ってきた。

「…どこ行ってたんだ、玲皇」

玄関に入るとすぐに大地先輩が俺を迎えた。しかし俺は答えずに、そのまま先輩の前を通り過ぎようとした。

「ひかりは、…見つかった」

先輩は俺を引き止めるように、そう言った。


「…へぇ…。よかったじゃないですか」

俺の言葉に先輩がムッと顔をしかめる。


「…、何してたんだ?」

「先輩に…関係ありますか?」

「…なんだとっ!?」

先輩の表情は一気に怒りへと変わっていく。俺の心は自然と落ち着いて平然としている。


「探しに行ってたんだろ?」

「…誰を?」

「ひかりをだよ!」

「……」

不思議な気分だ。
今はおかしいくらいに嘘をつける。もちろん、平然として。

これが俺だよ。…忘れてた。そう、忘れてただけなんだよ。


「お前…じゃあ…一体今まで何してたんだよ!?」

「…あんまり先輩がうるさいんで、外にいましたよ」

俺の言葉に、あたりはシーンと静けさを増す。

よくもまぁ、こんなひどいことが言えるもんだな、人間って。思ってもない言葉が、俺の中から次々と溢れてくる。


「いい加減にしろよ!」

先輩が俺の肩をガシッと掴んで離さない。


「…何でお前が一番にひかりを探してやらないんだよ…!」

「…先輩が見つけたんだから、良いじゃないですか」

「そういうことじゃないだろ?」

「…そういうことですよ」


そうだよ、結局はその方がよかったんだ。俺が見つけたとしても、ひかりが喜ぶことはない。
はっきり言いきれるんだ。

なら、先輩が見つけた方がいいじゃないか。だって、ひかりは先輩が好きなんだから。


「…もういい」


再び続いた沈黙を先輩の低い声が破った。

俺が先輩の言葉を理解できず、ただじっと見つめていると、先輩はゆっくり俯いていた顔を上げた。


「…お前がそういう態度なら…、俺はもうひかりのこと遠慮しない」

先輩がそう言ったときの瞳は、悔しいくらいまっすぐで真剣で何よりもひかりを想っていた。

未完成で脆い俺の心でも、ただそれだけは感じ取ることが出来た。


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