パラサイト ラブ
正義の瞳
「誰にこんなことをされたんですか?」
「……言いたくありません」
「どこから逃げてきたんですか?」
「別に逃げてきた訳ではありません……自分の意志で、出てきたんです」
私の言い分に納得しないのか、目の前の警察官はため息をついた。
年は私と同じくらいだろうか。正義感を象徴するような澄んだ瞳に、紺色の制服がよく似合っている。
――アパートを出てやみくもに歩いていたときに、小さな交番の前を通りかかった私。
ちょうどどこかに出かけようとしていた彼が中から出てきて、私の縛られた腕を見つけると慌てて私を保護した。
「名前は?」
「市川朝乃です」
「住所は?」
「……ありません」
さっきからこの繰り返しだ。だってあのアパートの住所を言ったらこの警察官は龍ちゃんを捕まえようとするかもしれない。
縛られていた腕をほどいてもらったのはありがたいけれど、私はもうここを去りたかった。
もっと龍ちゃんから離れなければいけない。
離れて、一からやり直すの。男の人に寄りかからなくても生きられるように。
誰にも甘えずに、自分の足でちゃんと歩けるように。