パラサイト ラブ
それからしばらく二人とも無言だった。
だけどもうここに居続ける理由もないからと、私は最後の別れを告げる。
「何から何まで本当にお世話になりました。それじゃ、私……行きますね」
くるりと太一さんにに背を向け、ドアに手をかける。
「――――朝乃」
その瞬間、彼に呼び止められ……後ろを振り返った。
大きな手が私の後頭部を掴んで、太一さんの方へ引き寄せる。
私が驚いて目を見開いている間に、彼はそっと、私の額に口づけた。
「……太一さん?」
その表情を確認しようと上を向くと、彼はばつが悪そうに私から目を逸らした。
「あーその、なんだ。グッドラックっていうか、元気でなっていうか…」
「……挨拶。ってこと、ですか?」
「……そう、それ!…いいからもう行け!」
最後は追い出されるようにしてアパートを後にした私。
―――建物から出て見上げた空は、今日もくすんだ灰色。
でも、太一さんの優しさとあたたかなコートに勇気づけられ、私は寒空の下、新たな一歩を踏み出した。