パラサイト ラブ
車に戻っても、すぐにエンジンをかける気になれなかった。
両手の体重をハンドルに預け、ついでにガンガンと痛み出す頭もそこに乗せて目を閉じた。
ふりだしに、戻った……
張りつめていた気持ちが急に緩んで、激しい疲労と深い落胆が一気に俺を襲う。
何気なく瞳を開けると、ズボンのポケットからはみ出した一万円札が目に入った。
「これ…返せなかったな」
ぽつりと呟き、その札をさらにポケットの奥深くに押し込んだ。
それを見ていると、余計に落ち込む気がしたから。
ハナには、なんて説明しよう―――
ホームレスに声をかけるなんてとても勇気のいることだ。
それでも俺のために、そして朝乃のために……苦労して得てくれた情報だったのに。
考えなくてはいけないことはたくさんある。だけど今は何も考えたくなかった。
俺は力なくキーを回して、車を走らせた。
思考を遮断するように運転に集中し、気に入りのCDを大音量でかける。
なんとかアパートまで帰り着くと、階段を上がるのもしんどかった。
また今日も、朝乃の居ない部屋に帰らなければならないのか―――…
そんな思いでうつむき加減に歩いていた俺は、部屋の前でうずくまる人間がいることに、直前まで気が付かなかった。