パラサイト ラブ


ここに居る人はほとんど携帯を片手に持ち、駅の方か通りの方のどちらかに目を向けて、待ち合わせ相手を待っている。



でもその女は、携帯を出すことも、周りを見ることもせずに…ただ、立っていた。



その瞳は悲しみの膜が張られたように濡れていて、今にも涙がこぼれるんじゃないかと心配になって――…



気づいたら、声を掛けていた。



「どうして、泣いてるの?」



顔を上げた彼女は、その潤んだ瞳で俺を見つめてこう言った。



「…あなたに会いたかったから」


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