しあわせおばけ
俺は大学を卒業してすぐ、この会社に就職した。
今年で勤続12年めの34歳。
従業員は社員も派遣も合わせて30人弱の小さな会社だから、男も女も、上司も部下も関係なく、みんなで力を合わせてやろうじゃないか、という社風が気に入っている。
ところが、最近の社内の雰囲気はちょっと違っていた。
「おはようございます」
全国の会社員がそうであるように、仕事の始まりは必ずこの挨拶だ。
俺より先に出勤している人の顔ぶれはだいたい決まっていて、そんな中、誰よりも早く出勤する、この春入社した佐伯さんが入れてくれるコーヒーが、俺は好きだった。
「…あの、三国さん、今日も無理しないでくださいね」
今日も佐伯さんは、俺に気遣いの言葉を添えて、コーヒーカップをデスクに置いた。
うれしいけど、正直その気遣いが重い。