しあわせおばけ
明日香がほとんど口をきいてくれないこと。
食事のとき、いただきますもごちそうさまも言わなくなってしまったこと。
妻が生きていた頃はいつも手伝っていた後片付けを、まったくやらなくなってしまったこと。
きっと今日も、帰ったら弁当箱が朝と同じ場所に置いてあるのだろうということ。
数ヶ月は仕方ないと思っていた。
これまでずっと仕事ばかりで、家のことは妻に任せきりだった俺は、正直言って明日香とどう接していいかわからなかったのだから、明日香だって同じだろうと思っていた。
でも月日が経てば経つほど、明日香の態度が頑なになっていく気がしてならない。
俺はとんかつを食べるのも忘れて、抱えている不安を夢中になって話した。
相沢は始終もぐもぐ口を動かしながらも、
「とにかくアレだな、俺が今度おまえの家に行くから、明日香ちゃんと3人で遊んで様子見ようぜ」
と言った。
ずっとひとりで抱えてきたことを話して気が緩んだのか、俺は目頭がじんわり熱くなるのを感じた。