しあわせおばけ
そう、それは俺が弁当を作るようになってからのこと。
明日香は、最初こそ持って行ってくれていたけど、だんだん食べないまま持って帰ってくるようになり、ついには持って行くことすらしなくなった。
せっかく早起きして作っているのに、まったく報われないとはこのことだ。
だからといってやめるわけにもいかず…―
「でも今はこうして心を開いてくれたし、食ってくれるだろ」
俺が楽観視すると、妻はこれみよがしに大きな息を吐いた。
「あなたって、ぜんっぜんわかってないのね」
「は?」
「どうして食べてくれなかったのか、考えたことあるの?」
なお声をひそめている妻に、とりあえず言った。
「それよりおまえ、そんなにコソコソしゃべらなくても、どうせ明日香には紗希の声は聞こえてないんだから…」
「気持ちの問題よっ!」
「わー!すいません、すいません!」
何事かとソファから振り返る明日香に、何でもないよと笑ってみせた。