しあわせおばけ
たった1品でいい、と妻は言った。
「あなたの手作りの卵焼きが入ってるっていうだけで、きっと明日香はそのお弁当から、いつもの何倍もの愛情を受け取ってくれるわ」
愛情…。
「そんなに単純なもんかな…」
「単純よー子供なんて。いくらませてたって、まだ10年も生きてないんだもの」
俺に言わせてもらえば、10年も生きていないのに妙に頭が働いたりするから、子供は難しいなんて思うんだけど。
でも妻の理論が正しいとすると、つまり俺は、卵焼きを週に一度作るだけで、明日香に愛情を届けられるということか。
だったら、それを拒否する理由はない。
クラスメイトたちが本にあるような華やかな弁当を持参する中、冷凍食品だらけの弁当で明日香に恥ずかしい思いをさせていたとは。
無知だったとはいえ、かわいそうなことをしてしまったもんだ。
「わかったよ…と言いたいけど、俺、卵焼きすら作れねー」
がっくりうなだれる俺に、妻が言う。
「私、明日は有給休暇取って朝からスパルタ料理教室を開いてあげるわ」
「え~スパルタ…」