しあわせおばけ
朝起きると、本当に妻がいた。
「おはよう!さ、やるわよー」
やけに元気だ。
「ほら、早く卵出して!」
「ちょ…まだ起きたばっかだし…」
「もうっだらしないんだから。しっかりして!」
俺のペースなんて知らないと言わんばかりに、妻は鈍い俺の背後をついて回り、次々と指示を出した。
ジューッと聞き慣れない音がキッチンに響いて、幼い頃から嗅ぎ慣れた、懐かしい卵焼きの匂いが充満する。
やがてテーブルには、見事に形の崩れた卵焼き(限りなくスクランブルエッグに近い)が現れた。
「…これ、本当に俺が…?」
どんなに不格好でも、生まれて初めて作った卵焼きに対する愛おしさといったらない。
「だいぶヘンだけど、お弁当サイズに切ればなんとかなりそうね」
妻も頬を紅潮させて、うれしそうに卵焼きを見ていた。