しあわせおばけ
「これからは何か1品、作るようにするよ。今まで気づかなくてごめんな」
寝起きのボサボサ頭を撫でると、明日香ははにかみながら、
「…うんっ」
と頷いた。
それは、この1年のうちで、いちばん純粋で、いちばんまっすぐな返事だった。
「よかったわね」
妻が安堵の様子で言う。
「ああ…」
ついこの間まで、俺と明日香との未来は真っ暗だった。
俺は、きっと俺たちはこのまま会話もなく、気まずい空気を家中に満たして暮らしていくんだと思っていた。
「紗希のおかげだよ。ありがとう」
心からのお礼の言葉が、自然に口から漏れた。
改まって言われると照れちゃう、なんて言いながらも、妻はまんざらでもない顔をしていた。