しあわせおばけ

その口ぶりはまるで、ちょっと旅にでも行こうかしら、というくらいの軽さで、永遠の別れを意味しているとは到底思えない。



「ふたりが笑顔を取り戻してくれたんだもの。思い残すことはないわ」

「そんな…っ」



勝手に心を決めたりして、俺の気持ちはどうなるんだ。



そう責めたい気持ちと、責めたところで何も変わらないだろうという気持ちが、せめぎあう。

再び言葉を失う俺の前に、妻が立った。

じっと俺の目の奥を見つめ、少しずつ距離を縮める。



「…ねぇ」

普通なら吐息がかかるほどの近さ。

でも彼女の息遣いを肌で感じることはできなかった。




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