しあわせおばけ

「お疲れさん」

「あの、ここ、いいですか?」

佐伯さんは、俺の隣の椅子に手を添えている。

「どうぞ」

「失礼しまーす」

座るなり、俺の顔をひょいと覗き込んだ。

「…風邪、もう大丈夫なんですか?」

「あ…う、うん…ゴホッ…だいぶ良くなったよ」



あんなに大袈裟に演じた先週末の手前、油断できない。

「困ったことがあったら、私、いつでもお世話しに行きますから、遠慮しないで何でも言ってくださいね」

「ありが…ゴホッ…ありがとう」



向かいで相沢が懸命に笑いを堪えているのを、どうか佐伯さんに気付かれませんように。




< 212 / 221 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop