しあわせおばけ
こういうとき、どうも真剣になりきれないのが俺の悪い癖だ。
嫌がっている娘を見るとかわいくてしょうがなくなって、
「怒るなよー、なんだかんだで一緒に風呂入る仲なんだから」
なんてくだらないことを言って、ますます怒らせてしまう。
案の定、明日香は俺を全力で押しのけ、走ってリビングを出て行ってしまった。
「…おまえ、アホか!明らかに空気読めてねーぞ!」
慌てる相沢に、
「でもよぉ、もうやってらんねーんだよ。無視されるくらいなら、ああやって怒鳴られるほうがよっぽどマシなんだ」
と、俺はソファで頭を抱えた。
「相沢、悪いけど明日香追いかけてやって」
俺の言葉どおりリビングを出ていく相沢を見送って、俺は大きなため息をついた。
妻が亡くなってからの俺は、毎日数えきれないくらい、ため息ばかりだ。