しあわせおばけ
「あの…」
やっと発した言葉は、かすれてほとんど声になっていなかった。
でも妻の姿をした女性は、かわいらしく首をかしげて、
「ん?」
と言った。
その仕種もまた妻に瓜二つで、俺の心臓の鼓動はみるみる速くなり、体中の血が引いていくのがわかって、俺は気がどうにかなってしまいそうだった。
「大丈夫?」
彼女が、そっと俺に近づいて心配そうに顔を覗き込む。
「びっくりさせちゃったよね、ごめんね」
びっくり?
そんな簡単な表現で片付けようとしているのか。
どこの誰だか知らないが、悪ふざけにも程がある。
俺は混乱する頭をなんとか落ち着かせようと、不自然な体勢のまま深呼吸をした。