しあわせおばけ
誰にって、そりゃあ…。
俺はようやく体を回転させて、妻風の女性の正面に向き直った。
「あなたは妻の紗希にそっくりだけど、でも紗希は1年前に死んだんだ」
「…もう1年か。早いものね」
感慨深げに言われても、どう返事をすればいいか悩む。
「だから、あなたは誰なんですか。妻の顔をして妻の声をしているけど、ぼくをからかおうとしてやっているんなら、悪趣味だ」
俺が言葉を選びながらゆっくりそう言うと、彼女はプッと笑った。
「からかうだなんて、愛する家族にそんなことしないわ。この顔もこの声も、正真正銘、私自身のものよ」
…今、愛する家族に、とたしかに言った。
何なんだ、この人。
「何が言いたいんだよ。あなた、自分は紗希の幽霊だとでも?」
その言葉に、彼女の瞳がパッと輝いたのを、俺は見逃さなかった。