しあわせおばけ
口をあんぐり開けたまま、放心状態で妻の幽霊に向き合う俺は、なんて間抜けなんだろう。
まさか自分が、幽霊の存在を信じることになるなんて、夢にも思わなかった。
「…わかったよ、あなたは…死んだ紗希の、幽霊だ…」
ここまでくると、もう悟りの境地だ。
俺は観念したようにポツリと言った。
1年前、冷たくなった妻の頬に触れ、枯れるほど流した涙。
もう二度と会えないと、目に焼き付けた白い顔。
まるであの日が夢だったかのように、妻は健康的な姿で俺の前に姿を現した。
まだ少し気の抜けた顔をしている俺を見ながら、彼女は、
「ありがとう」
と目に涙を浮かべた。