しあわせおばけ
俺の目の前に、妻の紗希がいる。
この事実は、俺の意識から常識というものを消し去った。
「ね、明日香たちが帰ってくる前に、もうひとつ、いいもの見せてあげようか」
妻はそう言って目尻の涙を拭い、軽く鼻をすすった。
いいもの…というか、その前に…―
「あなた…いや、紗希、さっきから帰ってくるとかなんとか言ってるけど、明日香と相沢、どっか行ったのか」
時刻はもう10時半だ。
こんな遅い時間に明日香を外に連れ出すなんて、相沢のヤツ、何考えてんだ。
「そっか、気絶してたから知らないわね。あのふたり、スーパー銭湯に行ったのよ」
「銭湯?」
そういえば目覚めた直後に時計を見て、明日香たちは風呂にも入っていないな、なんて思ったっけ。
家のすぐそばにあるスーパー銭湯なら、明日香も何度か行ったことがあるから心配ないだろう。