しあわせおばけ
「天使は、職場も住む場所も案内所の中。ようするに街には行けないのよ。だから人気がないのね」
天使になってすぐ、妻は与えられた住居を手放すことになった。
「でも、いいコトだってちゃんとあるのよ」
そこまで話したとき、玄関から鍵を開ける音が聞こえた。
「帰ってきたみたいね」
やばい!
「ちょ…紗希、どうする?隠れる?ていうか、まずその羽…あ、いや、で、どうする?」
俺が布団を被せようか押入れに押し込もうかとあたふたしている横で、妻は平然と玄関のほうに視線を向けている。
「おい、何やってんだよっ、早く隠れろって」
動じない妻をどうにかしようとするうちに、
「ただいま。三国、起きたか?」
と、明かりがついていることに気付いた相沢の控えめな声とともに、和室の戸が開いた。