しあわせおばけ

いつも夕食が終わると、俺が後片付けをしている間に、明日香は風呂に入る。

妻が死んだときは毎晩のように、

『ママと一緒に入る!』

と泣き喚き、パパで我慢してくれ、となだめたものだが、半年くらい前から明日香はひとりで入るようになった。

小学2年生といえばまだ父親と入ったっておかしくないのに、例によって、避けられている俺はさっさと用なしだ。

まあでも、それも成長の証。

なんて、前向きに捉えられるようになったのには、理由があった。



『おまえが倒れたとき、明日香ちゃん、パパが死んじゃうって泣いてたぞ。嫌われてるとか言ってたけど、あの子なりにいろいろ悩んでんだよ』

とは、あの日、銭湯から帰った相沢の言葉。

『パパが死んじゃうって泣いてたぞ』

そのひと言を思い出せば、無視されようが口をきいてもらえなかろうが、耐えられるというものだ。

安心しろ、明日香。

パパは絶対に、おまえを独りぼっちになんてさせないから。



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