しあわせおばけ

妻は、俺の隣に座った。

ソファが全然沈まないところを見ると、重量はないようだ。

影がなくて、体温はあって、体重はない。

実際の幽霊は、俺たち人間が描く幽霊像とほんの少し違う。



「羽、座るのに邪魔じゃないのか」

「これね、わりと自由自在で、引っ込めたりできるのよ」

その言葉通り、妻は羽を背中にしまいこんだ。

「…便利なもんだな」

俺が妻の肩越しに背中を覗き込もうと体を寄せると、妻がくんくん鼻を鳴らした。

「ねぇねぇ、コロッケの匂いする」

「なんだよ、急に」

「だってするんだもん」

せっかくいい雰囲気になりかけてたのに、ていうか、どういう嗅覚だよ。



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