愛してるなんて言わないで


あたしはDVを受けていたから
力でねじ伏せられると
自分がコントロール出来なくなる。

そのことを洸くんにも伝えてたのに。



あたしの異変に洸くんが気づいたのは
洸くんの声が完全にあたしの耳に
届かなくなってからだった。


『華穂?どうした?』


「や…こないで…」


怖い人があたしに迫ってくる恐怖。

あたしの中で洸くんは完全に
あいつの姿と被って見えていた。


『華穂?どうした?』


「やだ…あっちいって…」


さすがにおかしいと感じたのか
少しずつ寄ってくる。


それすら恐怖だというのに。


「いたいことしないで…
悪いのはあたしだから。ごめんなさい…
許してください。」


殴られる恐怖から逃げていた日々の
幼かったあたしが呟いていた言葉。


まるで呪文のように呟いていた。


恐怖から逃げるために。

洸くんから逃げるために。


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