あの場面はどこに
　男性は眠れない夜を過ごした。女性のことが頭から離れなかった。女性が姿を見せなかった次の週が明けた月曜日。

　男性は、今日はいてくれと祈りながら、駅に向かい電車に乗って女性を探した。

　いつもなら、五両目にいることが多い。次の駅から人がどっと乗ってくるので、探すなら今しかない。

　頼む。いてくれ。

　男性は強く祈った。

　スーツを着て、ドアに寄りかかる女性の背中が見えた。髪を一つに縛っている。

　いたのだ。男性は安心した。良かった。生きていた。

　女性は俯いたり、外の景色を見たりしている。そんな姿を見て、男性は決心した。

　女性の降りる駅で男性も降りた。多くの人が階段に向い、ひしめき合っている。

　ようやく改札口を抜けたとき、男性は声を掛けた。今日を逃してはならない。やっと会えたんだ。

　男性はこの人を守れたらいいなと思った。

　こうして、男性と女性の恋が始まった。
　

　
　私は本を読んでいる途中で泣いてしまった。

　まさゆきと別れた直後は、ショックで毎日が憂鬱だった。仕事の最中も涙が溢れて止まらなかった。同僚が休んでもいいのよと慰めてくれて、有給をとり、一週間休むことになった。

　私、知らなかった。彼がそこまで心配して、思ってくれていたなんて。こんなこと一度も聞いたことなかった。

「ありがとう」

　私は、彼の本を抱きしめた。
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表紙・目次

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