あの場面はどこに
 タイトルは、無題。

『会って話しがしたい。○×レストランで待ってる』

 送信者の名前は表示されていない。とっくの前にアドレスを消したから、アルファベットと数字のいわば、メールアドレスが表示されている。

 私は嫌な気分になった。送信者が、まさゆきだとわかったからだ。アドレスの始まりが430.happyとなっている。

 430は、まさゆきの誕生日だ。なにがhappyだ、このやろうと思わず声に出そうになった。

「誰から?」

「うん、友達」

「何だって?」

「べつに」

 そう言うと彼はテレビの画面から目をはずし、私の方を見た。

「怪しいなぁ」

「そんなのじゃないよ」

「恋愛小説では何かがある場面だよ」

「またそんなこと言って。小説のことばかり考えすぎじゃないの」

「今、煮詰まってるんだ。いいとこまできてるんだけど」

 彼は今、恋愛小説を執筆中だ。
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