あの場面はどこに
「君は服が多いね」

「そうかな?あなたの本のほうが多いと思うけど」

「着てない服ばかりじゃないか」

「いつか着るもん」

「そのいつかってやつは、永遠にこないから処分した方がいいらしいよ」

「断捨離ってやつでしょ」

「そうそう」

「明日着るもん」

 確かに彼の言う通り、最近というか一年以上着ていない服が多い。タンスの中から服を引っ張りだして色々見ていると、見覚えのない服がでてきた。

「なんだ、これ」

 私のイメージとは程遠い花柄の模様がある。首を傾げ、服を広げた途端私の目の前にある場面が見えた。

「わっ」

 私の声に彼が反応して、こちらを見た。

「どうした?」

 私は急いで服を隠した。彼に見えてないよね。

 彼は私の顔と隠した服を見ている。服は完全には隠れず少し見えてしまっているようだ。

「なんでもないよ」

 あの日、タンスに押し込んでから今日までずっとこの服の存在を忘れてしまっていた。

「それ、捨てるの?」

「これ?どうかな」

「俺のために買ってくれたんだろ?そのワンピース」

「え?」

「似合わないって言われていたけど、俺は似合ってると思うよ」

「え?」
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