あの場面はどこに
「知らない人にハゲって言ったら駄目だよ」

 彼は、くすくす笑っている。

「どういうこと?あそこにいたの?」

「店に入ってきたときから、目をつけてたんだ。おもしろそうな人が来たってね」

「全部見てたの?」

「席を移動して近くまで行ったら、君の声だったから驚いたよ」

 私の体が熱くなってきた。

「どうしてあのとき言わなかったの?」

「君だって言わなかったじゃないか」

「だって、恥ずかしかったから」

「もういいよ。お互い様だ」

「あの男とはなんでもないから」

 あの男とは、まさゆきのことだ。

「わかってるよ。あまりにもひどいこと言うから、殴ってやろうと思ったんだけど、君が立ち上がったんだ」

 その後のことは言うまでもない。

「ひどい。見てたら助けてくれても良かったのに」

 私はほっぺたをふくらませた。

「ごめん」
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