午前0時、夜空の下で
せめて妃月やクロスリードたちに連絡でもできれば帰れるのだろうが、ただ城に行っただけでは門前払いされる可能性もある。

一時期働いていたとはいえ、城で働いているものは大勢いるのだから一人一人の顔を覚えている者などおらず、まして女官の仕事を手伝うことが多かった心は、門番など階級の低い兵士たちと話す機会などなかったのだ。

黙り込んでしまった心に、ミスティアは微笑む。

「よかったら、この店で働かん? 旦那様が、本職の娘ばっかで雑用を任せられる奴がおらんって嘆いてたんよ。場所が場所やからイマイチいい子が見つからんくて。アンタ、そういう綺麗な手ぇしとるってことは、結構いい暮らししちょったやろ? 街で新しく仕事見つけるんは大変やで。ここは雑用やから給料は少ないけど、衣食住は保障するけん!」

二つ返事で了承した心は、後に絶句することになる。

彼女は知らなかったのだ。

ミスティアが働くその店が……黎国屈指の娼館だということを。














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