午前0時、夜空の下で
未来の王妃と囁かれている女性を……否、王自身の口から王妃にするつもりだと聞かされていた女性を、護衛もなく一人にしてしまったのだ。

彼女の口から、戻る、と聞いていたのに。

その場の雰囲気に呑まれ、一歩も動けなかった。

そもそも、アルジェン自身も困惑していたのだろう。

――王妃になるということは、つまりココロ様は……。

妃月は一人動揺を露わにするアルジェンから視線を移すと、後ろの壁ぎわへと目を向ける。

「お前たちも随分と役に立たなかったものだ。動くなとは言ったが、見失えとは言ってないだろう? おまけに連中を黙らせるどころか、余計に騒がせてる。心を煽って夜会に担ぎ出したかと思えば、護衛を怠り挙げ句の果てには消えただと? ……私を怒らせるのも大概にしろ」

絶対零度の、怒り。

この世の誰もが恐れる王の静かな怒りを目の当たりにした彼らは、微動だにできず、ただただ頭を下げていた。
< 108 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop