午前0時、夜空の下で
「ココ、ミスティアのところにこれを持って行って」

艶めいた瞳の美女に渡されたのは、南の大国で造られている銘酒だ。

さまざまな客が訪れるが、これほど高価な酒はなかなかお目にはかかれない。

「ミスティアがお相手してるのは、カルヴァローネ伯爵っていう高名な貴族よ。失礼のないように、ね」

そんな言葉に見送られて、心は長い廊下を歩き出した。

所々にある小さな窓から、朝日が差し込んでいる。



娼館で働き始めてから三度月が昇り、沈んだ。

黎明館と呼ばれるこの娼館は、黎では最も敷居の高い場所であり、客層も王族から貴族、著名な商家の主人など指折りの富豪が揃っている。
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