午前0時、夜空の下で
低く、妖艶さを含んだ声が耳朶を打つ。

ゆっくりと目を開けた男の視線を受けて、心はビクリと震えた。

今にも闇に溶けそうな漆黒の瞳が、心を見据えていた。

「欲に塗れた、愚かな人間が来ると思っていたが……」

男は今まで牢に閉じ込められていたとは思えないほど優雅に立ち上がると、鉄格子に歩み寄る。

男がしなやかな指を鉄の上に滑らせると、見る見るうちに鉄が溶け始めた。

「結界が消えているな。……あれは死んだのか。お前は――なぜ、ここへきた?」

男は鉄を溶かして牢から出ると、冷めた美貌に微かな笑みを浮かべ、心のもとへと歩み寄る。

この狭い地下室に、逃げる場所はない。

「み、水の音が、」

得体の知れない男に対する恐怖からか、真っ青な顔で震えながら、心は答えた。
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