午前0時、夜空の下で
嬲り殺すつもりか、またはどこかに閉じ込め虐げるつもりか。

少なくともまともな生き方はできないだろう。

「お前の血も体も、私に捧げろ。全てを私に捧げると……私のモノになると誓うのなら、」

死を暗示する、傲慢な宣告。唇を噛みしめ、心は男を睨んだ。

「なります」

男の言葉を遮り、真っ青な顔で、しかしはっきりと心は告げる。

なぜそのようなことを言い出すのか――そんな問い掛けは、無意味だ。

命を惜しんで断ったとしても、人間を皆殺しにされれば、心には生きる術がない。

そこにあるのは限りない孤独だけだ。

……人間は、一人では生きられない。

ただ、ほんの少し不思議に思う。

命を盾に取られて、なぜ自分はここまで覚悟を決められるのだろうかと。

そんな考えを振り切るように、言葉を続ける。

「私のすべてを、あなたに。だから、」

お願いです、と続けようとして、迫る美貌に絶句した。

漆黒の瞳の向こうに自分の姿を見つけた瞬間、心の唇にしんなりと冷たいそれが重ねられる。

ざわりと、得体の知れぬ感覚が心を襲う。

そんな心に構わず、形の良い口唇は項を滑り、生温かい舌がねっとりと這っていった。

やがて心の耳朶に軽く押しつけられた口唇は、そっと吐息を零す。


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