午前0時、夜空の下で
何の感触もなかったが、まるで夢のように美しい光景だった。

長い睫毛が影を落として、どこか憂いを帯びた表情。

――あんな顔で、彼は私の首に口唇を寄せていたのだろうか。

手が震え、胸がギュッと締めつけられる。

「こころ、……」

最後の言葉が聞き取れないまま、強い風が吹き、水面が再びぐにゃりと歪む。

落ち着いた水面には、涙に濡れ、切なげに眉をひそめた心の姿がぼんやりと映し出されていた。

「娘、主は決して言葉を違えぬ。そなたのやるべきことは、一刻も早く城へ戻ることだ」

アッシュの声に、心はようやく顔を上げた。

外はすでに闇が薄れ、日が昇ろうとしていた。
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