午前0時、夜空の下で
「お前、名は?」

「……心」

男は心の耳元でくすりと妖笑すると、その白い項に鋭い牙を立てた。

「!!」

まず感じたのは、鋭い痛み。

歯を食い縛って痛みに耐えた直後、痺れるような甘い疼きが心の全身に走る。

――血を、吸われている?

ごくりと血を飲み下す音に鳥肌が立ち、心はきつく目を閉じると目の前の身体に縋りついた。

やがて男が、ゆっくりと唇を離す。

「気に入った」

貧血のためか、それとも初めて体感した悦楽のためか。

朦朧とした意識の中で男の言葉を聞いた心は、糸が切れたように男の胸へと倒れ込んだ。

少女を受け止めた男は、口唇についた血を舐めとり嗤う。

「まさか、我らを酔わせる血の持ち主だったとは……。そのような血が、真実この世に存在したとはな」

男は少女を抱き上げると、地上を目指して歩き出す。
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