午前0時、夜空の下で
第9話
早朝の執務室。
……魔族たちが、眠りに就き始める時間。
キシナからの報告書を眺めていた妃月は、ふと笑みを零す。
黒曜の瞳に映るのは“カルヴァローネ伯爵”の文字。
そして、その数行下に綴られた“心”の文字にゆっくりと指先を這わせる。
魔王は愉しげな笑みを浮かべ、窓の外へと目を向けた。
そこにあるのは、沈もうとする白い月。
「我が永遠の姫に幸運を、」
妖艶に囁かれたその言葉を、耳にした者はいなかった。
「……どうかしましたか?」
密やかなカルヴァローネ伯爵の囁きが、心たちの耳にまで届く。