午前0時、夜空の下で
黎稀王が己の力でもって統一した魔界では、一瞬の隙も見せないことが生き残るための必須事項だ。

少しづつ、だが確実に、彼女は強くなっている。

――あの御方の隣に立つに相応しい存在へと、近づいている。

「いいか、よく聞け。私はこれから、お前の言葉にのみ従う。助けが必要なら呼べ。どんな時も、お前だけは守ってやる」

守護人としてではなく、キシナ自身の言葉。

その瞳に以前宿していた冷徹な色はない。

驚いて目を丸くする心を尻目に、キシナは扉の方へ視線を向けた。

秀麗な眉が、微かに寄せられる。

「私がいることは黙ってろ」

密やかにそう囁くと、キシナは音もなく姿を消した。

それと同時に、軋んだ音を立てて扉が開く。

ひょこりと顔を覗かせたのは、檻の中で見かけた奴隷の少女だった。

「あ、目が覚めた?」

< 252 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop