午前0時、夜空の下で
「よかったのか?」
朝日が差し込む部屋で、壁に背を預けたまま一部始終を聞いたキシナは、怪訝な表情で心を見遣る。
ヴェルディの身代わりとなることになった心は、黎に向かうまで彼女の部屋で過ごすことになったのだ。
ミルフィーユは無事に治療を終え、今は客室で眠っている。
「何が? 黎に嫁ぐこと? ヴェルディ様の代わりになること? ――ミスティアに、全部話したこと?」
「全部だ」
溜息混じりに言葉を漏らしたキシナを見て、心は思わず苦笑する。
「終わったことだから仕方ないでしょ。それに、ミスティアにはいつか話したいと思ってたんだ。この世界で、初めて私と対等な立場になって助けてくれた子だから」
「陛下の寵愛を受ける女と対等になれる奴などいるはずがない。お前が陛下に連れて来られた人間と知ってなお、まったく態度の変わらないあいつがおかしいんだ」
疲労感を漂わせ額を押さえたキシナは、髪を梳ろうとしていた心の手から櫛を取り上げた。
「そういえば、キシナのことも話したっけ。ミスティア、キシナが女の人だって気づいてたよ」
「意外と鋭いようだからな。長年黎明館で働いてきただけあって、各国の王侯貴族のことは知り尽くしているし、あれほどの美貌なら、見栄っ張りな琅にも受け入れられやすいだろう」