午前0時、夜空の下で
心を安心させるための言葉ならいくらでも言える。

しかしそれはジェイの理念に反するし、何より心はそんなことを望んではいない。

「合法でなくなった、というだけです。裏ではいくらでも奴隷の売買が行われるでしょうし、またウィーザーのような組織ができることも十分に考えられます。それは奴隷制度が長きにわたって行われ、琅の国民に長年の差別的思想が根づいているからです。一朝一夕で解決できる問題ではありません。むしろこれから何百、何千もの年月をかけ、国民に巣くう差別への価値観を取り除かなければならないでしょう」

まだ幼い顔に苦渋の色を浮かべた心を見て、ジェイは自然と強張っていた表情を微かに緩めた。

「しかし奴隷制度が廃止されなければ、この差別は永遠に続いていたかもしれない。状況を変えるきっかけを投じたのは、ベルであり、ココロ様です。これからは琅の皇族がすべきことです。この国には平等という概念すらありませんから」

失礼します、と今度こそ部屋を辞したジェイを見つめ、心はやる瀬ない溜息を零した。
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